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賃貸物件を探していると、「敷金礼金なし」と書かれた物件を見たことがあるのではないでしょうか。初期費用をグッと抑えられる夢のような物件で、心惹かれるのも無理はありませんが、ちょっと待ってください!安易に飛びつくと思いもよらない事態に陥り、後悔することもあるんです!
初期費用が抑えられるのは魅力的ですが、敷金礼金なし物件には注意すべき点もいくつか存在します。この記事では、引っ越しの初期費用を抑えたい方に向けて、敷金礼金なし物件のメリット・デメリットを徹底解説します。
敷金礼金なし物件の裏側まできちんと把握したうえで、安全に節約しましょう。
ホントに初期費用タダ?敷金礼金なし物件のカラクリ
「敷金礼金なし」と聞くと、初期費用がゼロになるように聞こえますよね。でも、本当にそうでしょうか?実は、敷金礼金なし物件には、初期費用を安く見せるためのカラクリがあるんです。
敷金は、退去時の原状回復費用に充当されるお金で、原状回復費用を差し引いた残金が返金されます。一方、礼金は大家さんへのお礼として支払うもので、戻ってくることはありません。これらの費用が「なし」ということは、初期費用を抑えられるように感じますが、その分、他の費用が上乗せされている場合もあります。
例えば、以下のような料金が上乗せされる可能性があります。
- 家賃の高額設定:礼金なしの代わりに、毎月の家賃に礼金相当分の金額が上乗せされていることがあります。
- クリーニング費用:入居時か退去時に、原状回復費用として高額なクリーニング費用が請求されることがあります。
- 鍵の交換費用:本来は家主側が負担すべき費用ですが、請求される場合があります。
- 短期間で解約した場合の違約金:入居者の短期での退居を防ぐため、一定の期間を満たさずに退居した場合に「短期解約違約金」が発生する契約になっている物件があります。契約期間を確認し、短期解約のリスクを判断しましょう。転勤が多い方は特に注意が必要です。
費用面以外でも、敷金礼金がないことで起こりうる弊害は以下の通りです。
- 家賃滞納の対応が厳しくなる:敷金は家賃滞納が起きた際の保証金の役割も担っています。敷金がないと保証金がないということなので、通常よりも家賃滞納に対する催促が厳しくなります。
- 部屋の条件が悪い:人気のない部屋が敷金礼金なしで貸し出される傾向にあります。そのため、築年数が古い、交通機関や日常生活の利便性が低い、日当たりが悪いなど住環境が悪い場合があります。
敷金礼金がないからといって、必ずしも「お得」とは限りません。追加請求や費用の上乗せにより、結果的に総額では一般的な物件と変わらない、あるいは高くなるケースも存在することを覚えておきましょう。
敷金礼金なしの物件が募集される理由
では、なぜ最近敷金礼金なし物件が増えているのでしょうか?主な理由としては、空室対策、競争の激化、初期費用を抑えたい消費者の増加などが挙げられます。
特に、インターネットでの物件探しが主流となったことで物件の情報数が増え、競争が激化しています。他の物件情報に埋もれないために、初期費用を安く見せて消費者の目を引く物件が増えました。
しかし、初期費用が安い分、品質面で不安が残る物件も存在するのが現状です。物件探しの際は、初期費用だけでなく、物件の状態や周辺環境なども慎重に確認することが大切です。
敷金礼金なし物件の初期費用の相場は?費用内訳を大公開
ここでは、敷金礼金なし物件の費用内訳を具体的に見ていきましょう。敷金礼金なし物件の初期費用の主な内訳は、以下の通りです。
必ず発生するもの- 仲介手数料:家賃の1ヶ月分+消費税が相場です。物件の仲介を行った不動産企業に対して支払うもので、法律によって家賃1ヶ月分+消費税が上限と定められています。
- 前家賃:入居する月の家賃を事前に支払うものです。入居日が月の途中になる場合は、入居日が属する月の日割り計算された家賃と、入居した翌月分の家賃を合わせて支払うケースが多いです。例えば4月20日に入居した場合は、4月20日から4月30日の日割り家賃と、5月分の家賃を前家賃として支払います。
- 保証会社利用料:相場は2.5万円程度です。家賃が払えなかった場合に家賃の立替を行う家賃保証会社の利用料金です。多くの物件が加入を必須としています。
- 火災保険料:相場は1.5~2万円程度です。2年契約が一般的なので、複数社のプランを比較検討し、最適なものを選びましょう。
- 鍵交換費用:相場は1~2万円程度です。防犯上の理由から、入居時に鍵を新しいものに交換するための費用です。
- クリーニング費用:相場は1.5万円~5万円程度ですが、部屋の広さによって値段が2万円単位で変動します。原状回復費用に充てる敷金がない分、クリーニング費用として追加で請求される場合があります。
どれくらいお得?敷金礼金なしの賃貸物件と一般的な賃貸物件の差
例えば、家賃8万円の物件に中旬頃に入居した場合だとそれぞれこのような金額になります。
一般的な賃貸物件敷金(家賃1ヶ月~2ヶ月分):8~16万円
礼金(家賃1ヶ月~2ヶ月分):8~16万円
仲介手数料(~家賃1ヶ月分+消費税):8.8万円
前家賃(今月分の日割り家賃+来月分):12万円
保証会社利用料:2.5万円
火災保険料(1.5~2万円):2万円
鍵交換費用(1~2万円):2万円
総額:43.3~59.5万円
仲介手数料(~家賃1ヶ月分+消費税):8.8万円
前家賃(今月分の日割り家賃+来月分):12万円
保証会社利用料:2.5万円
火災保険料(1.5~2万円):2万円
鍵交換費用(1~2万円):2万円
クリーニング費用(1.5~5万円):5万円
総額:32.3万円
一般的な賃貸物件と敷金礼金なし物件を比較すると、初期費用に11万円~20万円以上の差が生じる場合があり、初期費用だけみると非常にお得に見えます。
しかし、敷金礼金なし物件には隠されたリスクがあり、初期費用だけで判断するのは危険です。
【原状回復費用に要注意!】敷金礼金なし物件のデメリットを徹底解剖!
初期費用が抑えられるのは嬉しいけれど、デメリットはないのでしょうか?ここでは、敷金礼金なし物件の隠れたデメリットを徹底的に解剖していきます。
敷金礼金なし物件で注意すべきポイントは多数ありますが、その中でも特に注意したいのが、退去時の原状回復費用です。敷金がある場合、原状回復は敷金から差し引かれるため、
その総額が不透明でも、ある程度安心して退去できます。
しかし敷金がない場合、退去時に原状回復費用を全額自己負担しなければならないケースが多く、原状回復費用の内訳や負担範囲を巡って、大家さんや管理会社とトラブルになるケースが少なくありません。
原状回復費用の自己負担はどこまで?国土交通省のガイドライン
そもそも「原状回復」とはどのようなケースを対象としているのでしょうか。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、以下の3つのポイントが定義されています。
- 通常の使用による損耗や経年劣化は入居者側の負担としない
- 貸借人側の故意・過失・注意義務違反による破損・汚れ・傷は入居者側の負担とする。
- その他の通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損は入居者側の負担とする。
ケース別:原状回復費用の負担先
国土交通省のガイドラインの中では賃貸住宅で発生した破損・汚れ・傷を5つのケースに分け、それぞれの負担先を明記しています。
- ケース1:日常生活の中で発生した汚れやキズ
家主にあたる大家さん・管理人側の負担となります。ここで言う日常生活で発生した汚れ・傷としては以下のようなものがあります。
家具の設置による床や畳のへこみ
テレビ・冷蔵庫の裏にできる黒ずみ(電気ヤケ)
カレンダーやポスターなどを貼った画鋲やピンの跡
耐用年数を超えた設備機器の故障
地震によるガラスの破損 - ケース2:日常生活の中で故意・不注意によって発生した汚れやキズ
入居者側で注意できたはずの損傷なので、入居者側の負担となります。ここで言う汚れ・傷としては以下のようなものがあります。
引っ越し時や、キャスター付きの椅子による床や畳のへこみ
結露や食べこぼしによるカビやシミの黒ずみ
家具を固定させるために壁に打ち付けた釘穴の跡
耐用年数内の誤った操作による設備機器の故障
ペットによる破損・ニオイ - ケース3:建物の経年劣化によって発生した汚れやキズ
家主にあたる大家さん・管理人側の負担となります。ここで言う経年劣化にあたるものとしては以下のようなものがあります。
経年による畳・床の変色
直射日光による床や壁の変色
劣化によるガラスの亀裂
雨漏り(すぐに大家さん・管理人へ報告した場合) - ケース4:次の入居者を迎えるための準備
家主にあたる大家さん・管理人側の負担となります。ここで言う次の入居者のための準備にあたるものとしては以下のようなものがあります。
鍵や網戸、畳などの交換
部屋や内装のハウスクリーニング
エアコン内部の洗浄
鍵の交換 - 例外的に入居者側の負担になる場合
禁煙と定められた部屋で喫煙による損傷がある場合
定められたルールを破ったことによる損傷なので入居者側の負担となります。
雨漏りを発見してから長期間にわたり大家さん・管理人へ報告しなかった場合
「善管注意義務違反」といって、大家さん・管理人へ修復の報告をすべき義務を怠ったことを指します。この場合は入居者の義務を怠ったとして入居者側の負担となります。
紛失・破損による鍵の交換を行う場合
入居者側の紛失・破損は故意による損傷にあたるので、入居者側の負担となります。
このように、賃貸住宅で発生した損傷は主に、通常損耗(経年劣化や 日常生活による損耗)と特別損耗(入居者の故意・過失による損耗)の2種類に分けられます。通常損耗は大家さん・管理人側が、特別損耗は入居者が負担することを覚えておきましょう。
敷金礼金なし物件の原状回復費用の落とし穴
原状回復費用は国土交通省のガイドラインによって負担の範囲が定義されていますが、敷金礼金なし物件の場合で起こる、例外的な費用負担が発生するケースがあります。
それは契約書に原状回復費用に関する特約が設けられているケースです。
特約の記載内容によっては、本来は大家さん・管理人負担となるはずの通常損耗まで入居者側の負担となってしまう場合があります。契約前に契約内容をしっかり確認しないと、退去時に高額の原状回復費用を請求をされる可能性があるので要注意です。
特約の記載内容は、契約時に説明されないこともあり、入居後に後悔してしまうこともあります。契約をする前に、必ず契約内容を隅々まで確認しておきましょう。
退去時にドーン!高額請求されないためのチェックポイント
退去時に想定外の高額請求が発生すると、引っ越し費用や今後の生活費へ大きな影響が及んでしまいます。そこで想定外の請求を防ぐためのチェックポイントをまとめました。
- 原状回復費用の特約項目の確認: 通常は大家さん・管理人側の負担となる、通常損耗の範囲の原状回復費用も、入居者側の負担となる特約が契約書に盛り込まれている場合があります。特約には、原状回復費用の負担範囲の他、業者の指定、見積もり方法などが記載されている場合があります。業者の指定がされている場合は、より費用が高額になる場合もあるので、不明点があれば不動産会社へ確認しましょう。
- 入居前の損傷個所の確認: 入居前の損傷の原状回復費用が誤って請求されてしまうと、退居時のトラブルにつながります。もしそうなった場合に根拠を示せるように、入居する前に損傷個所の写真を撮っておきましょう。併せて不動産会社へ損傷状況の報告を行っておくと、トラブルが起きた際に有利になります。
- 日頃の物件の取り扱い方に気を付ける: 経年劣化や 日常生活による通常損耗は、特約項目がない限りは大家さん・管理人の負担となりますが、入居者の故意・過失による特別損耗は入居者側の負担となります。釘を打ち付けるなど、物件に傷がつく扱いは絶対に避けましょう。また結露によるカビや食べこぼしによるシミなど、こまめな掃除で防げる損傷もあります。
損しないための賢い選択!敷金礼金なし物件を選ぶコツ
多少のリスクがあったとしても、どうしても初期費用を抑えたい方もいらっしゃると思います。敷金礼金なし物件も、注意点さえ把握すればリスクを最小限に抑えた物件選びが可能ですので、損をしない賢い選び方を理解しておきましょう。
最大のポイントは初期費用だけでなく、入居から退去までにかかる総費用で比較検討することです。
敷金礼金なし物件に潜むリスクの多くは、敷金礼金で請求しなかった分の金額を別の形で上乗せすることにあります。そのため、
- 相場より高い家賃設定がされていないか: 近くで同じ条件の物件の家賃と比較することで、検証しましょう。相場より高い場合はその理由を不動産会社へ確認し、正当性のあるものか検討しましょう。
- 任意の保険料・保証委託料が必須にされていないか: 加入する場合にかかる料金の見積もりを行いましょう。
- 短期解約違約金が設定されているか: 物件によって短期解約にあたる期間が異なります。期間を確認し、居住する予定の期間と比較して問題がなければ、引き続き入居を検討しましょう。なお転勤の可能性がある方の場合は予定通りに入居期間を調整できない可能性があるので、あまりおすすめしません。
- 原状回復費用の特約項目の内容の確認: 入居者負担となる費用の範囲がどこまでか確認しましょう。依頼する業者の指定などがある場合は更に高額を請求されるリスクもあるので、総合的に判断しましょう。場合によっては入居の検討をやめることも選択の一つです。
まとめ
敷金礼金なしの物件は、初期費用を抑えられる魅力的な選択肢ですが、隠されたデメリットや注意点も多数存在します。安易に「初期費用が安いから」という理由だけで選んでしまうと、後々後悔する可能性も十分にあります。初期費用を抑えたい気持ちは分かりますが、この記事で解説したメリット・デメリット、注意点、選び方を参考に、総額で比較検討し、賢く物件を選びましょう。
執筆者

DOOR賃貸編集部
DOOR賃貸運営事務局